L'histoire

僕が好きだった人たちについて書きます。僕の勝手な片思いなのだけど。

陶片追放

 

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テミストクレス

  アテナイの軍人。ペルシャ戦争で、攻め入るペルシャ軍をサラミス島近海で破ったサラミス海戦の大功労者。人物的には強欲で陰謀家だったそうだけど、まぁ、その程度のこと、歴史に名を残すほどの人物ならありがちではないか。僕は嫌いではない。

 

 第1回ペルシャ戦争後、アテナイペルシャの再攻撃に備えて、軍艦を200隻造った。軍艦といっても木製の手こぎ船なのだけど、一隻あたりの乗組員は200人。ざっと4万人の海軍兵が必要になる。それまでのギリシャの軍隊は、貴族中心だったものに、自分で武器を調達できる金のある平民(重装歩兵)が加わったもので、自分で武器を用意できない下層の平民は戦争に参加できなかった。「参加できない」というのは、残念な言い方に聞こえるけれど、まさにその通りで、男たるもの我がポリスを守るために戦うというのは名誉なことだと古代ギリシア人は考えたようだ。だから戦争に参加できないのは、残念だと。

 

 軍艦の漕ぎ手に武器の調達は必要ないので、下層の平民はこぞって海軍に志願した。士気も上がったことだろう。

 

 サラミス海戦の勝利で、テミストクレスはいい気になりすぎたようだ。権力と名誉を執拗に求めるあまり、陶片追放によって追放されてしまう。紙がないので陶器のかけらに独裁者になりそうな人の名前を書いて追放するという選挙。

 

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「ネオクレスの子テミストクレス」と刻まれているらしい(ウィキペディア参照)。

 

 6000票を超えると、10年間の国外追放になったそう。この選挙を今の日本や地方自治体にも導入したら、けっこう盛り上がりそうな気もする。

 

 テミストクレスは、その他にもいくつかの陰謀を疑われ、命をも狙われたようだ。いろんな地を転々としながら、最後にたどり着いたのは、かつて戦ったペルシャだった。ペルシャにとってもテミストクレスの軍事的才能は、利用価値があると思われたのかもしれない。三度目のアテナイ攻撃に、ペルシャ王はテミストクレスに艦隊を率いるよう命じた。

 

 僕がテミストクレスを好きなのは、彼がこのペルシャ王の命令を受けなかったところが大きい。褒美も地位も彼が満足するほどのものを与えられたろうに、祖国に弓を引くくらいなら、と毒を呷ってテミストクレスは自害したのだった。

 

 ところで、テミストクレスは船の漕ぎ手を選ぶとき、志願兵の手のひらを見て、その向き不向きを瞬時に判断出来たそう。その際、志願兵一人一人に対して「手見しておくれやす」と、奇妙な京言葉を用いたとか・・・

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出エジプト

 

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<アメンヘテプ4世⇒イクナートン>

 古代エジプト18王朝の王様で、神官たちとの政治的軋轢なんかで、それまでのアメン・ラー多神教からアトン神への一神教に信仰を変更した。信仰を変えたので、アメンヘテプの名も捨てて、イクナートン(「アトンに愛される者」という意味)に改めた。遷都もした。かなり急激な宗教改革だったと言えるだろう。

 

 もしかしたらこの頃、紀元前13世紀ごろと言われるモーセの「出エジプト」と時代が重なるかもしれない。モーセは長らく奴隷同然の身分で囚われていたヘブライ人を率いてエジプトを脱出するのだけど、ヘブライ人の信仰も一神教だったことを考えると、エジプトがアトン神の一神教に変更したのには、ユダヤ教の影響もあったのではないだろうか?いや、十戒を授かるのは、エジプトを脱出した後だから、ユダヤ教はまだ成立していない。

 

 調べてみると、すでにかの精神分析の始祖フロイトが、このアメンヘテプ4世の宗教改革に注目し、ユダヤ教唯一神ヤーヴェの原型は、エジプトのアトン神にあるという仮説を提唱しているそう。エジプトの方が、ユダヤに影響をもたらしたという考えなのだ。となると、ユダヤ教ばかりでなく、その後のキリスト教イスラム教にまで、アメンヘテプ改めイクナートンの一神教は影響したことにもなる。イクナートン畏るべしである。もしかしたらイクナートンこそは、モーセその人ではなかったか?・・・いや、これは考えすぎだな。 

 

 古代エジプト一神教の時代は、イクナートン一代で終わってしまい、子の代になると再びアメン・ラー多神教に戻った。子の名は、トゥトアンクアメンで、名前の後ろにアメンが見える。

 

 それにしてもトゥトアンクアメンは、読みづらい名前だな~と思いながらも、何度か口にしてみると、ちょっとした<アハ体験>に感動するかもしれない。日本流にはツタンカーメンと呼ばれる若き王様なんである。

 

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